データベースの物理削除と論理削除の違いについて
はじめに
アプリケーションのデータベース設計を行う際、どのようなデータ削除の方式とするかを考える必要があります。 具体的には、物理削除と論理削除のどちらを採用するかです。 それぞれの方式には利点と欠点があり、システム運用や保守に大きな影響を与えます。
この記事では、これら削除方式の違いとメリット・デメリットを説明します。
物理削除と論理削除
物理削除とは、データをデータベースから直接削除する方式を指します。これは、SQLでDELETEやTRUNCATE文を発行してデータを破棄する方法です。一般的に「データを削除する」というと、この物理削除を思い浮かべる方が多いでしょう。
一方、論理削除は、データセットに削除フラグ(または削除日時など、削除状態を示す情報)を追加することで、データそのものはデータベース上に保持しながら、アプリケーション上では削除されたものとして扱う方式です。論理削除を採用すると、削除されたデータもデータベース内に残り続け、後からそのデータを参照したり復元したりすることが可能になります。
物理削除のメリット
不要なデータを完全に削除するため、ストレージの利用量を最小限に抑えられるという利点があります。データ量が減ることでクエリのパフォーマンスが向上しやすく、システム全体の効率化にも寄与します。
物理削除のデメリット
物理削除ではデータが完全に消去されてしまうため、万が一誤った削除を行った場合、バックアップなど外部要因を活用しなければデータを復元できません。このような復元の困難さは、運用上のリスクとなり得ます。
論理削除のメリット
削除フラグを立てることでデータベース上にデータを保持しつつ、アプリケーションからはデータが削除されたかのように扱うことができます。この方法では、削除したデータがデータベース内に残るため、誤操作によるデータ削除の復元が容易であり、保守性の高さが大きな利点です。また、削除フラグや削除日時を記録することで、削除の履歴を追跡することが可能で、データ運用に透明性を持たせることができます。
論理削除のデメリット
論理削除ではデータが蓄積され続けるため、物理削除と比べてストレージの利用量が増加します。
また、論理削除にはもう一つ注意すべき点があります。たとえば、ユーザー退会時の規約で「データを削除する」と明記されている場合、論理削除のみでは規約上の要件を満たさない可能性があります。このような場合には、論理削除に加えて物理削除を併用し、退会時に一定期間後の完全削除をスケジュール化するなどの対応が求められることがあります。
どちらを採用するべきか
近年では、コンピュータリソースが充実しており、論理削除に伴うストレージ利用量やパフォーマンスの問題で大きく困ることは少なくなっています。また、採用するフレームワークによっては、デフォルトで論理削除がサポートされていることが多く、特に意識しないまま論理削除を利用しているケースもあります。たとえば、Laravelフレームワークでは、モデルにSoftDeletesトレイトを設定(use SoftDeletes)するだけで簡単に論理削除を実装できます。このような背景から、多くの場面で論理削除が推奨される傾向にあります。
しかし、物理削除が優位となる状況も存在します。例えば、データの削除頻度が非常に高く、削除されたデータがストレージやパフォーマンスに大きな影響を与える場合、物理削除の方が適している場合があります。また、退会時のデータ削除を規約で定めている場合や、法的な要件によりデータの完全な削除が求められる場合も、物理削除を採用する必要があります。
これらを踏まえると、基本的には論理削除を採用することが合理的ですが、特定の要件や状況に応じて物理削除を適切に組み合わせることが重要です。また、データの特性や利用方法に応じて、テーブル単位で論理削除と物理削除を混在させる設計も実用的なアプローチです。このように柔軟な削除方式を採用することで、システムの保守性と効率性を両立させることが可能になります。
おわりに
データベースにおける削除方式として、物理削除と論理削除はそれぞれ異なる特性と用途を持っています。どちらを採用するかは、システムの要件や運用方針、法的な規制などによって異なりますが、近年のリソース環境の向上やフレームワークのサポートの充実により、論理削除が多くの場面で推奨される傾向があります。
一方で、物理削除が求められるケースや、両者を組み合わせて使う場面も少なくありません。特に、システムの特性やデータの利用状況を十分に理解し、適切な削除方式を設計することが重要です。削除方式を正しく選択し、適切に運用することで、保守性とパフォーマンスの両立が可能になります。