サイト運用をAPEXドメインで行う場合のメリットとデメリット
はじめに
DNSにおいてルートレベルのドメインを APEXドメイン と呼びます。これには ルートドメイン、ベアドメイン、ネイキッドドメイン などの別名もあります。たとえば、ドメインが example.com の場合は example.com がAPEXドメインにあたります。
かつて、多くのウェブサイトは www サブドメイン(例: www.example.com)を利用するのが一般的でした。しかし、近年では www を付けずに APEXドメインで運用するケースが増えています。 なぜこのような変化が起こったのでしょうか?
本記事では、ウェブサイトを APEXドメインで運用するメリットとデメリット についてを様々な視点から考察します。
技術面からの視点
単なる技術的な観点から考えると、APEXドメインでのサイト運営は推奨できません。 その主な理由はDNS仕様におけるCNAMEレコードの制約にあります。
ウェブサイトを運営する際、サーバーのIPアドレスを Aレコード で直接指定することは一般的ですが、近年の冗長化や可用性向上の観点からCDNやロードバランサーを指定するケース も増えています。通常、これらのサービスは特定のホスト名を提供しており、これらのサービスを利用する際はそのホスト名を CNAMEレコード として設定するのが一般的です。
しかし、DNSの仕様ではCNAMEレコードを設定した場合、同じホスト名に対して他のレコードを設定できないという制約があります(RFC1912)。特に、APEXドメインにはNSやSOAレコードが必須であるため、この制約からCNAMEレコードを設定することができません。
一方、一部のDNSサービスではCNAMEレコードではないが、CNAMEのような動作を可能にする独自の拡張が提供されています。 具体的には AWS Route 53 の ALIAS レコード(AWSリソースのみ指定可能)、IIJ DNS の ANAME レコード(APEXでのみ利用可能)、Cloudflareでは CNAME Flattening などです。
これらの機能を活用すれば、APEXドメインでもCDNやロードバランサーを指定できるようになります。しかし、これらの独自拡張に対応していないDNSサービスを利用している場合はCDNやロードバランサーの導入が技術的に困難になるという問題があります。
そのため、たとえば既存のAPEXドメインで運用されているウェブサイトをCDN経由に切り替えようとしているにも関わらず、現在利用しているDNSサービスがCNAME代替機能をサポートしていないような場合、以下のいずれかの決断をする必要があります。
- DNS管理サービスをALIAS/ANAMEなどが利用可能なサービスに変更する
- サイトのURLを変更する
- CDNの導入をあきらめる
実務中にこの問題に遭遇したこともあり、その際はサイトURLを変更することで対応しました。
運用面・利用者面からの視点
一方、利用者の観点から見ると、APEXドメインには大きなメリットがあります。 URLが短くシンプルであることは、使いやすさや覚えやすさに直結し、www 付きのURLよりも直接的にサイトの意味を伝えやすいという利点があります。
特に、モバイル端末が主流となった現代では、入力の手間が少ないことが大きな強みとなっています。近年はQRコードによるサイトの読み込みをすることも増えましたが、依然としてURLを直接入力するケースもあります。 このような時、スマートフォンやタブレットでは短いURLの方がストレスが少なく、利便性が向上します。
このように、シンプルで直感的なAPEXドメインは、モバイル時代のニーズにも適した選択肢となっています。
広告提供の観点
ウェブサイトで広告を配信するために Google AdSense を利用する場合、APEXドメインでアクセス可能なウェブサイト上に /ads.txt を配置する必要があります(厳密には IAB Tech Lab が定めた ads.txt の仕様に Google AdSense が従っている)。
リダイレクトによる対応も可能ですが、ウェブサイトを www 付きで運用していたとしても、APEXドメインからのアクセスを提供する必要がある という仕様になっています。
特に、www にCDNを利用している場合、APEXドメイン側の対応が必要 となり、以下のいずれかの方法を実施する必要があります。
- DNSサービスのリダイレクト機能を利用する
- DNSサービスが提供する ALIAS / ANAME などの拡張機能を活用する
- Aレコードでウェブサーバーを指定し、そのサーバーでリダイレクトのみを行う
APEXドメインのレコード設定はドメインの保有者のみが行えるため、ここに値を設定することでそのドメインの運用者であることを証明できます(たとえば、サブドメインであれば NS レコードを設定し、別のDNSサービスで運用することも可能ですが、APEXドメインはその性質上、常に管理者による制御が必要になります)。
また、広告システム全体の一貫性を保つために、「すべてのウェブサイトのAPEXドメインに対してアクセスする」という共通ルールを設けている という側面もあると考えられます。
これらの点から、現在の仕様にも合理性はある と言えます。 しかし、DNSの性質を考えると、APEXドメインで運用するウェブサーバーに依存しない別の仕組みが採用されていれば、より柔軟な運用が可能だったのではないか というのが著者の意見です。
まとめ
本記事では、APEXドメインでサイト運用を行う際のメリット・デメリット を様々な観点から考察しました。現在、利用するDNSサービスを自由に選択できる状況であれば、APEXドメインでのウェブサイト運用に大きな問題はないと考えています。 しかし、以下のようなケースでは注意が必要です。
- 自社DNSを利用している場合
- ALIAS/ANAME に対応していないDNSサービスを利用する場合
- さくらのレンタルサーバー、XSERVER などのDNSサービスを含むレンタルサーバーサービスを利用するよう場合
このような環境では将来的にサーバー構成を変更する際の柔軟性が制限される可能性があるため、www 付きのサイト運営を推奨します。
もし、今から新しくウェブサイトを構築してAPEXドメインでの運用を考えている場合 は、ALIAS/ANAME 拡張機能が利用可能なDNS管理サービスを選択すること が望ましいでしょう。